2021年8月13日金曜日

マスクのある日常

夢を見た。
師匠のお稽古場にいくと、マスクの紐が切れた。
おそるおそるマスクを一枚いただけないかと聞くと、師匠がいつもの椅子に座りながら、しょうがないわね、と言いながらマスクをだしてくれた。
机の上の新調した引き出しに詰め込まれた、大量の様々なマスク。
オーソドックスなものや、ちょっと変わった形の不織布マスク、布マスク、ウレタンマスク。
「このマスクはね、こうなっているの」
自分のコレクションをみせるかのように、ひとつひとつマスクの特徴や使い心地を説明して下さる。
ひとしきり説明をたまわると、僕は冒険せずに、その中から自分が普段使っているのと、似たマスクをひとつ選び、いただいた。
すると、自分のお気に入りが別のものだったのか、これも一度使ってみなさい、となんとも奇抜なマスクを半ば強引にいただき、いいんですかー、などと言いながら遠慮する形をとって拝借した。

私は毎日ちゃんと検査をしているのよ、と言いながら引き出しから次にとりだしてきたのは大量の抗原検査キット。
なんでも糖尿病の数値を測るのに、指先から少しの血をだすので、もったいないからついでに抗原検査もするのだそうだ。
「これでうちは安心だから」と少々使い方が違う気もするが、目の前でわざわざ検査の様子をみせて下さり、あなたにも分けてあげる、と抗原検査キットを少しいただく。
その後は、僕の近況を報告した。
最近の本番の話や、次の仕事の話、息子がどうだとか写真をみせて話すと、ニコニコしながら、そう、そう、とうなずいていた。
結局、肝心の稽古はせずに、いろいろと話し込んでいる途中で目が覚めた。

こういう夢は、不意にきて、心の準備ができてなくて、とてもまいる。

夢の端々まではっきりしていて(師匠はコロナ禍の前になくなっていて、そんな話はしたことがないのに)その細部までとてもリアルであり得そうな話で、起きて、師匠がいないことを確信しつつも、まだそこにいるような感覚になる。
しばらく布団の中で静かにおこるパニックを鎮めて、覚醒する。
夢だとわかっていても、たぶんご在命だったら、こんな日常があったのだろうなと思う。

たぶん、マスクがある日常の中で、僕たちはできることをやっていくのだろう。これから先も楽しんで生きるために、文化カルチャーがある生活をするために。
師匠、とてもいいお稽古場でした。そんなお稽古場にしていこう。
最後に、夢だとしても一回は稽古しとけばよかった、残念。

藤間豊彦